0909「大阪文フリにて良い出会いをした話」

 ひっそりこっそりと行ってきました、大阪文フリ。
 こういう同人誌即売会には随分と行っていなかったのだけれど、相変わらずの空気感を感じながら、のんびりと回っていた。それほどイベントに足繁く通うほどまめな人間ではまったく無いのだけれど、あの、熱烈に自分のスペースを推してくる感じとか、ライトからヘビー、自由なスタイルでなんでもありなごたまぜ闇鍋の密度高い空気はやっぱり独特なんじゃないかと思う。褒めている。
 ちょっとへばっているので大阪まで行くかどうか迷ったのだけれど、大阪は大阪だけれど前回までと違って滅茶苦茶アクセスの良い場所に変わったし、何より滅茶苦茶好きで毎年大阪文フリに出ておられるとある作家さんが今年は新刊を出されるということだったのでこれを逃すわけにはいかないよなと午前中のうちに足を伸ばした。偉い。売り切れたらと思うと恐いからね……。

 コミュ障なので基本的にひっそりこっそり黙って作品を買っていきますが、今日は印象的な出来事があったので書き残しておこうと思う。
 この本についてなのだけれど。

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 子供の詩が集められた本。同人誌ではなく商業誌でアマゾンでも売っています(と御本人に別れ際に教えていただき先程確認したら本当にアマゾンでも売っていた)。
 筆者の田中さんは長く教員生活をしておられて、自分が担任をしていた時に行った授業で子供たちが書いた詩(感想文っぽいなあというのも入っています)を収めたそうです。対象は大体小学3年生くらい。子供たちの詩と、それに対する優しく肯定的な分析が挟まれていたり、こんな授業(たとえば隣の席の子の目をじっと見つめて、見えたものを詩にする、など)をして生まれた詩、など指導法も入っていたり、教育本としての一面も持った本なのですが、なによりやはり子供たちの詩がとても良い。
 これは田中さんも言っておられたことなのだけれど、子供は生きてきた年数がまだ少なく、知識も少なく、純粋で、だからこそ綴る言葉には心が直接反映される。心がそのまま言葉になる。素直な感性は、凝り固まった大人の脳ではとても出せないものがある。

 いくつか好きな誌はあるんですが、たとえば、

>えんぴつ
 くろい ほねが 一本。
 さきから、どんどん みじかくなる。

 これは一瞬なんのことやら、となるのだけれど、鉛筆の芯を黒い骨とたとえてるんですね。そんな風に見れます? 鉛筆を。良いな~~~と思いました。分析がついてくれているので子供独特の表現もすっと頭に入ってきてなるほどな~となる。

>あんりさんの 目の中に
 あんりさんの 目の中に、ぼくがいる。
 手をふったら、
 目の中の ぼくが 手をふる。
 あんりさんが、
 ぼくに へんじしてるみたい。

>おか田くんの 目の中に わたしがいる
 ちっちゃい ちっちゃい わたしが
 おか田くんの 目の中に いる。
 すこし ちかくで 見ると、
 うしろに、だれかが いる。
 その子も
 ちっちゃい ちっちゃい子になっている。

 これらは先程言った「隣の席の子の目をじっと見つめて、見えたものを詩にする」授業の作品なのですけれど、じいっとじいーーーっと見つめて、だからこそ見えた素直な世界を文章に落とし込んでいる、まさに体現したような詩で、すごーーーく好きなんですよね。この授業の作品は他にもあるんですが、あんまり載せるのも良くない気がする、しかしどれもどれも好きです。この授業の様子も教えていただいたこともあり余計印象的な部分。

 なんかもうね、すごくいい本なんですよ。本当に。
 でもってこの田中さんがものすごくいい人だったんですよ。
 既に教員は引退されているということだったのでそれなりのお年だとは思うのですが、なんかもう、誤解を恐れずに申し上げても良いのなら、近所の優しいおばちゃん先生といいますか、少し古びた住宅街で習字の先生でもやっていそうな穏やかな雰囲気が話せば話すほどに溢れてくるんですね。「子供は天才なんですよ」「本当に良い詩を書くでしょう?」「擬人化が素晴らしいですよね」「こんな発想、なんて素晴らしいんだと思って」「やんちゃな少し困った子でも驚くような良い詩を書くんです」などなど、熱意のこもった優しいトーンで、結構ぐいぐい来られるんですけど、苦にならない。田中さんの子供への愛情や尊敬、ご本人の人柄のなせる空気だったなあ……としみじみ。子供たちの詩も直球だけど田中さんもまた直球で、それが押しつけがましい感じじゃなくて、たった数分のできごとだったけれど、子供たちの詩の良さや、内容に関するエピソードを交わしただけで不思議な意気投合感があって、そこには年齢の差など関係なく、偶然あの場所で、一冊の本を通じて生まれた、まったく別世界を生きてきた人とのコミュニケーションが誕生した瞬間だった。
 ああいうのが、こういう、顔と顔を合わせる即売会の醍醐味の一つなんだろうなあと一つ発見した気持ちだった。
 私はたまたまスペースの前を通りがかって表紙が目にはいるまでこの方について知らなかったし、向こうも当然私のことなど知らないけれど、そんな偶然の出会いってすごいって、単純にすごいなあって。それは、ネットにおいてもそういう部分はあるけれど、face to faceはやはり、お互いの感情が濃密にぶつかる。私はきっと、この文学フリマでなければこの本に出会うことは無かっただろうし、本屋で見かけたとしても手にとっていなかったと思う。この本が手元にあるのは、純粋な本の良さだけではなく、田中さんと会話をしたのが大きい。本に経歴が載っていて輝かしいものだったのですけれどそれも納得。教育方針「認める・ほめる・励ます」座右の銘「継続は力なり」「プラス思考」「笑顔」「Keep dreaming!Keep trying!And Keep on smiling!」がもうすべてを表している。全肯定感がね、もうすごくて。笑顔が素敵な方だったな~~授業風景を見てみたい。
 少し疲れているからこそ、あたたかさに触れたのが心地良かったというのも確かにある。タイミングが良かったんだろうなあ。
 本を買って、分かれる最後に、
「良い出会いをしました」
 と、噛みしめるように、素敵な笑顔で言ってくださったのがすご~~~~~~~~く、心に残った。「私」という人間に言ってくださったのが、伝わって。
 この方の言葉もかなりストレートなのです。だからこそ響いたのかな。
 私の方こそ、良い出会いをして、この出来事だけでも、今年の文フリが素敵な思い出になりました、素敵な本とお話をありがとうございました、と。
 田中さんにはまたお会いしてみたいなあ。
 今思い出しても、すごく幸せになる。
 年齢も経歴も関係無い。筆者の方と話せる即売会の良さを今までで一番実感した日となりました。
 大切な思い出として綴っておきます。

 そんなわけで心の充電満タン、楽しい文フリでした。厳選された戦利品も、読み進めていくよー。出展者の皆様、おつかれさまでした。