0430「平成」

長いようで短かったような気がする。

私はどちらかというと過去を振り返りたくない人間で、遥か彼方に戻れば保育所時代、直近で言えば大学時代、そういった社会人に至るまでにどこか属していたコミュニティのいつの時代も戻りたいとは一切思わない。その時々で出会ってきた人で今も合流している数少ない友人はいるし、刹那的で楽しい思い出もあるのだが、どうにも根がネガティブなのでどうしても後悔や漠然とした苦味ばかりが目立ってしまいその時に感じた苦労をもう一度繰り返したくないという気持ちに呑み込まれる。苦しみながらどうにか終わらせてきたものを何故もう一度経験したいなどと思うか。過去に戻っても同じ思いを味わう自信がある。私は今が一番とまでは言わないけれどとにかく過去には戻りたくない。その思いに突き動かされるように今を生きている。失ったものを取り戻したくなることもあるが、所詮失ったものはたとえ何度やり直しても失うことになるのだと思う。過去は変えられないが今は多少変えられる。

けれど過去がなければ今はなく、過去がなければ未来もない。過去に出会ってきたものや過去にぶつかってきたものが今の人生を形成していることには変わらない。

この三十年に駆け巡ったニュースのまとめを見て、実に濃い三十年だったのだなと思う。バブルは崩壊したけどなんとか楽しさを見出そうとしていた。日本は戦争にこそ参加しなかったけれど、周囲は戦争をしている。ベルリンの壁だって破壊されたのはつい平成の話だった。多くの災害に飲み込まれた。ビルに飛行機が突撃した。恐ろしいほどのスピードで技術は発達し、元年にはネットのかけらもなかったはずだろうが、終わりぎわではネット社会と化し誰もが掌にそれを握り締め園児ですらYouTubeで育ちiPadを操っている。これ以上どう育つのだろう。どのように進化していけるのだろう……問題を抱えたままで。

戻りたくはない時代。楽しくてでも苦い時代。未来に大した希望を見出せず今を生きることにただ精一杯だ。だけど何故か漠然とこの生きている間に出会ってきたものや人に対して、今この時でよかったなと思うことがある。今この時。天皇崩御でない形で元号が変わろうとしている。日々は変わらないが、生きたまま時代が変わる。新しい意味を与えられた言葉が誕生し一般化されていく。華やかな願いとは裏腹にきっと息苦しい困難な時代になることを覚悟しなければならない。仕事をしたりネットにどっぷりと浸かった生活をしていると、結局、人と人との繋がりとかいう、誰とも簡単に繋がれてしまうからこそ希薄になりつつあるそういったものが鍵になる予感もしている。

しかし、ただ元号が変わるということでこれだけお祭り騒ぎになるのだから結局日本人て能天気でおしあわせな民族で、そういうところがお茶目でいいところ。

ただ一つ確かなのは、同じ時代に出会って今も付き合っているような貴重な存在は愛すべきだということだ。

さよなら平成、私たちの象徴。ありがとう、この時代に出会った人たち、ものたち。過去は消えていく。どうやら私も生きたまま一つの区切りを超えられるらしい。直接戦禍に巻き込まれることのない平和な時代に生まれたことは本当に幸福なことだ。平和ぼけを自覚して思う。私の、そしてあなたの未来を豊かにできるのは自分自身だけだよ。