0126「ブルートレインへの憧れ」

「WEST EXPRESS 銀河」という名称の寝台列車が今年の5月から運行するらしい。
 青く塗られた車両、寝台列車、とくるともうそれは、あの、廃止されたブルートレインとなるのだろうか。
 私自身は鉄道や飛行機といった乗り物にさして興味は無いのだけれど、ブルートレインには他と一線を画した関心や憧れを抱いている。発表された新しい寝台列車に高揚したのに理由は二つ挙げられる。
 一つは、この列車は5月から9月までの期間は京都・大阪~出雲市間を走るということ。もう一つは「ブルートレインでいこう!」という児童書が急に思い出されてあまりにも懐かしかったからだ。
ブルートレインでいこう!」は、三輪裕子が書いた児童書で、勇太と鉄平という同じ小学校に通う二人の男の子が、タイトルの通りブルートレインを使って東京から函館を目指すお話である。ちなみにこの作品は三部作となっていて、ブルートレインは二作目にあたる。勇太は少し気の弱いおとなしめの男の子で、鉄平はいわゆるジャイアンタイプの性格になる。勇太は親戚の家かにいくために青森へ行くことを計画していたが、鉄平が勇太に、函館に二人でつれていってほしい、と頼む。そこからストーリーは動き出していく。お父さんに会いにいくんだったかな……。
 私も彼等と同様小学生の頃(三年生か四年生のどちらか)、この本にやたらと没入していた。木造の廊下、学年共用の本棚にその本は並んでおり、借りては、次の作品を読んで、またじっくりと借りる、そんな風に何度も読み返した記憶がある。その割にもうだいぶ記憶が薄れているのだけれど、図工か何かで描いた絵にこの本の挿絵をイメージして描いたことは非常に覚えていて、つまりは強烈に好きな本だった。地元は東京から離れていたし、ブルートレインなんて本の中だけの世界の乗り物だった。夜、眠っている間に、列車は揺れて、遠い東北・函館までつれていかれる。列車というモチーフにはそそられるものがある。夜行バスではだめなのだ。ジブリ魔女の宅急便は貨物列車の藁布団で眠っている間に町に辿り着くから味が出る。
 しかし学年が上がり共用本棚から離れるとすっぱりと読まなくなった。子供は熱中するとどこまでも没入するが、飽きるときはとことん忘れる。図書室に無い本だったので、馴染んだ廊下を離れるとそもそも出逢うことがないし、また違う本に意識が向いていた。
 だけどブルートレインにはずっと強烈な憧れを持っていた。大学で地元を出ても東京はまだ遠い存在だった。そもそも普段はなかなかブルートレインについて考えない。思い出したのは、悲しきかな、廃線が決まってからだ。
 物語の中の存在であったブルートレインは現実に存在していたのだけれど、結局一度も乗ることができず無くなってしまった。今でも寝台列車といえば「サンライズ出雲」等が有名だけど、それじゃないんだよな、と思う。乗っていない分際で言うのもなんだけれど。
 しかし、真っ青に染まった寝台列車が新たに運行するという。これは、やはり、惜しまれながら去ったブルートレインの後継者という位置付けではないのだろうか。銀河という名は自然と銀河鉄道を彷彿させる一方、場所は関東でも東北でもなく西日本というのが予想外ではある。東日本を走らないけれど、一度は失われた夢を少しでも叶えるという意味では、一回くらい乗ってみたい。いやしかし、出雲市かあ。どんぴしゃな地元ではないんですが、なんというか、不思議な気持ちになります。10月からは下関へ向かうみたいなので、それを狙っても良い。山口県は新幹線で通過したことしかない。
 久しぶりに「ブルートレインでいこう!」も開いてみたくなったのだけれど、やっぱりもう廃版になっているようで。また古本屋か図書館で児童書コーナーを回ってみようかと思う。
 関西にお住まいの方は、ぜひこの機会に、夜行列車で山陰・山陽へ旅してみてはいかがでしょう。

 ではでは。